「百聞は一見に如かず」という言葉は、どこかで聞いたことがあるかと思います。中国の古典『漢書』が出典であり、いわゆる故事成語の一つです。
実は、この言葉には続きがあることをご存じでしょうか?
「百聞は一見に如かず、百見は一考に如かず、百考は一行に如かず、…」と続いていくのですが、この中の「百考は一行に如かず」を私はあえて「百考は一口に如かず」と表現したいと思います。
以下の文章は、私が大学生だった頃にお世話になった先輩と、「百考は一口に如かず」という言葉を考えるに至った過程をエッセイ風にまとめています。
大学時代の先輩
大学時代の先輩は、すごい人でした。
研究室に入ってすぐに教授から新規の研究テーマを与えられて、たった半年で成果を出していました。
そして、その結果を学会で発表し、さらには投稿論文の原稿(もちろん英語)も一人で書いていました。
これを学部4年生でやったと聞いて、私は「すごいなぁ」と思いました。
そして、先輩は真面目な人でもありました。
毎日、研究室に来て実験を行い、教授とも仲良しでした。
これは当たり前のことのようにも思えますが、夜に研究室に行き、朝まで実験していた私からすると、「真面目な人だなぁ」という印象しかありませんでした。
もちろん、夜に研究室に行くのは教授と会うのを避けるためです。
私は教授との相性が微妙だったので、研究で何か疑問に思うことがあっても質問しようとはせず、ほとんど自力で調べていました。
いま振り返っても、先輩と私を比べると「自分はダメダメだったな」と思います。
そして、今になって思うのが、先輩と私の違いは「やるか、やらないのか」だったのではないか、ということです。
百考は一行に如かず
「百考は一行に如かず」という言葉があります。
一般によく聞くのは「百聞は一見に如かず」だと思いますが、後になってその続きが付け足されたようです。
百聞は一見に如かず
百聞は一見にしかず、の続きはこんなことに | 子供でも分かることわざ格言辞典と慣用句の意味
(ひゃくぶんはいっけんにしかず)
百見は一考に如かず
(ひゃっけんはいっこうにしかず)
百考は一行に如かず
(ひゃっこうはいっこうにしかず)
百行は一効に如かず
(ひゃっこうはいっこうにしかず)
百効は一幸に如かず
(ひゃっこうはいっこうにしかず)
百幸は一皇に如かず
(ひゃっこうはいっこうにしかず)
これらを整理して、私なりの意味を付け加えたものが次の通りです。
- 百聞は一見に如かず
(あれこれ聞くより、一度見たほうがよくわかる) - 百見は一考に如かず
(あれこれ見るより、一度自分で考えたほうがよくわかる) - 百考は一行に如かず
(あれこれ考えるより、一度やってみればよくわかる) - 百行は一効に如かず
(あれこれやってみても、成果が得られなければ意味がない) - 百効は一幸に如かず
(いくら成果があっても、幸せにならなければ意味がない) - 百幸は一皇に如かず
(いくら自分の幸せがあっても、万人が幸せにならなければ意味がない)
先ほどご紹介した「百考は一行に如かず」は、「あれこれ考えるよりも、一度やってみればよくわかる」という意味です。
これまでの自分の人生を振り返ってみても、私は行動するよりも頭で考えることが多かったように思います。
何かの実験をするときも、やる前からいろいろ考えすぎて、すぐに取り掛かることができませんでした。
一方で、先輩はとりあえず実験をしていました。実験をしながら、その場でいろいろ試してみて、上手くいきそうな方法を探すというのが、先輩のやり方でした。
先輩は、あれこれと考えるより先に、実際に行動することで多くの成果を出していました。
まさに、百考は一行に如かず。
これが、先輩と私の大きな違いだったのかなと思います。
論より一口のプリン
「論より証拠」ということわざがあります。
論より証拠
デジタル大辞泉「論より証拠」 – コトバンク
あれこれ論じるよりも証拠を示すことで物事は明らかになるということ。
ちなみに、英語では次のように表現するそうです。
The proof of the pudding is in the eating.
「プリンの味は食べてみなければわからない」- Weblio和英辞書
《プリンの味は食べてみなければわからない》
日本語だと堅い印象を受けますが、英語だと柔らかそうに感じますね。
この英語のことわざの通り、いくらプリンの味を考えたところで、食べてみなければ美味しいのかどうかはわかりません。
逆に、一口食べるだけで「このプリンは美味しいのか」という議論を終わらせることができます。
実際に行動したほうが、事実として得ることは多いと思います。
数多の論より、一口のプリン。
私に必要だったのは、この一口のプリンだったようです。
百考は一口に如かず
プリンの食べ方を悩む前に、とりあえずスプーンですくってみる。
プリンの味を考える前に、とりあえず一口食べてみる。
その甘美な味をしっかりと堪能した後に、プリンについて考えても遅くはありません。
きっとプリンについては、食べる前よりも詳しくなっているはずだから。
まとめ
考えるよりも先にやってみたほうが早いというのは、頭では理解しているつもりです。
しかし、これすらも頭で考えた結果であり、実際に行動して「考えるよりもやった方が早い」と経験的に理解したわけではありません。
でも実際に行動するとなると、気づいたときにはもう考え込んでしまっています。
もし目の前にあるのが美味しいプリンだったら、迷うことなく食べることができます。
でもそれが、食べられるかも分からない未知の食品だったら? なんか毒々しい色をしているけど、それを食べないと生き延びれない状況だとしたら?
やはり食べるよりも先に、いろいろ考え込んでしまうと思います。
考えなしに動くことが大切なんじゃない。考えすぎないで、行動してみることが大切なのだ。
これは、普段から考えすぎて動けなくなってしまう自分への、いわば背中を押すための言葉です。
そして、何かに悩んだときは、プリンを食べながらこの言葉をつぶやこうと思います。
「百考は一口に如かず」
とりあえず、今からプリンを買いに行ってきます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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