本書のキーワードである「アサーション」とは「自分も相手も大切にする自己表現」のことです。
日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者である著者・平木典子先生は「日本人は、相手を大切にすることは、自分を二の次にして引き下がることと理解しがち」であると本書で述べています。
そういった悩みがある方、そしてアサーション初心者の方の入門書として、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
『アサーション入門』の情報
- 著者:平木典子
- 出版社:講談社
- 発売日:2012/2/17
- 新書:176ページ
Source:講談社BOOK倶楽部
「アサーション」とは
「アサーション」とは、自分も相手(他者)も大切にする自己表現のことです。
「アサーション」の考え方を初めて示したアメリカの心理学者・ウォルピィは、「人間関係における自己表現」には次の3つのタイプがあると説明しました。
- 非主張的自己表現
- 攻撃的自己表現
- アサーティブな自己表現(アサーション)
1つ目の「非主張的自己表現」は、自分よりも他者を優先し、自分のことを後回しにしてしまう自己表現です。
自分の意見や気持ちを言わないでいたり、曖昧な表現で伝えたりするのも「非主張的自己表現」に当てはまります。
2つめの「攻撃的自己表現」は、自分のことだけを考えて行動し、ときに相手の気持ちを無視したり、軽視したりする自己表現です。
相手に押し付けたり、命令をしたり、大声で怒鳴るなどがこれに当てはまります。セクハラやパワハラなども、典型的な「攻撃的自己表現」です。
3つ目の「アサーティブな自己表現」は、本書のテーマである「アサーション」のことであり、自分も相手も大切にするための自己表現です。
アサーションとは、自分が話したいことを非主張的にも、攻撃的にもならず、なるべく率直に、素直に伝えると同時に、話した後には、相手の反応を待ち、対応することも含んだ自己表現です。
平木典子『アサーション入門』P.42
つまり、アサーションにおいては、以下の2点が重要となります。
- 自分の考えや気持ちを捉え、それを正直に伝えてみようとすること
- 自分の気持ちを伝えたら、相手の反応を受け止めようとすること
これは、「話すこと」と「聴くこと」の両方がバランスよく存在しているコミュニケーションであるとも言えます。
アサーションの具体例
アサーションを理解するための具体例として、本書に登場する「郵便局の窓口での話」が分かりやすかったのでご紹介します。
郵便局の窓口に係の人がおらず、奥で立ち話をしているように見えたとき、「おしゃべりなんかして、窓口はどうなってるのよ!」と厳しく言うのは攻撃的自己表現、黙ってその人が気づくまで待つのは非主張的自己表現、そして、少し大きめの声で「お願いします」と声をかけるのはアサーションです。
平木典子『アサーション入門』P.50
アサーションの第一ステップは、「自分の気持ちを確かめること」です。
自己表現をするためには、自分がどのように感じているのかを明確にする必要があります。
場合によっては、はっきりとしない「モヤモヤした気持ち」を持つこともあるかもしれませんが、その際は正直に「今はモヤモヤしている」と困惑していることを伝えるのもアサーションです。
第二のステップは、確かめた自分の気持ちを「正直に言語化して伝えること」です。
前述したとおり、曖昧な気持ちも素直に伝えるようにしましょう。「迷っている」「うまく言えない」というのも、率直な自分の気持ちです。
自分の気持ちを伝えた結果、相手から反応が返ってきたら、それを受け止めるようにしましょう。
相手に心を向け、自分の思いはどう受け止められたかをきちんと見届けましょう。相手にも自分と同じように、思いを確かめ、表現するプロセスがあります。それを待ち、聴くことで、はじめてアサーティブなやり取りが成立します。
平木典子『アサーション入門』P.47
これが、アサーションの基本的な「型」となります。
アサーションの2つの機能
本書では、コミュニケーションの場面を2つに分類し、それぞれの場面におけるアサーションの機能について解説しています。。
- 仕事や問題解決の場面
→タスク(課題)のためのアサーション - 人間関係を深める場面
→メンテナンス(関係維持)のためのアサーション
「タスクのためのアサーション」では、問題の解決や目的を達成するために、具体的な方法や提案を伝え合う必要があります。
そのため、論理的思考や的確な言語的表現(数値を用いた情報伝達など)が優先して用いられます。
一方で「メンテナンスのためのアサーション」では、安定した人間関係を築くことを目的としてコミュニケーションを行います。
そのため、タスクを遂行するときに使われる言語的な表現よりも、非言語的行動(表情や仕草など)や情緒的表現(声の調子や態度など)が有効です。
このように、コミュニケーションの場面によって、有効なアサーションの機能が異なることが分かります。
しかし実際は、この二つの機能は完全に分かれているものではなく、状況に応じてどちらも適切に使い分ける必要があります。
このように、仕事や課題を行う中にもメンテナンスは必要ですし、関係を維持するためのタスクもあるのです。その使い分けとは、「切り替え」と「つなぎ」をうまく統合することです。
平木典子『アサーション入門』P.117-118
人間の社会的な活動は、上の図のような「メンテナンス機能」と「タスク機能」で構成されていると本書では考えられています。
そして、それらの働きを支えるコミュニケーションの鍵が、アサーションにあると著者は述べています。
アサーションの3つのポイント
では、具体的にアサーションを取り入れた自己表現をするには、どうすればよいのでしょうか?
アサーションのポイントは、以下の3つです。
- 自分の思いを確かめる(自分はどうしたいのか)
- 事実や状況を共有する(相手と分かち合う必要がある事実はないか)
- 提案は具体的に述べる(とりあえず一つ提案してみる)
つまり、アサーションとは「①自分の気持ちを確かめて、②相手と状況を共有し、③伝わりやすい具体的な提案をしてみる」という流れで行われます。
アサーションが身についている人は、この3つのポイントを踏まえて、相手に対して臨機応変に使い分けています。
場合によっては、コミュニケーションをとる相手が非主張的、攻撃的な自己表現を使うときもあります。
しかし、相手がアサーションを知らない場合でも、まず自分からアサーティブに自己表現することが重要です。
相手が非主張的であろうと攻撃的であろうと、自分ができることは、まず自分がアサーティブになってみることです。
平木典子『アサーション入門』P.158
まず、自分がアサーティブになって自分が気持ちよくなる体験をしましょう。そして、自分の思いを率直に伝えるとどんなことが起こるか、フォローし続けてみましょう。そのようなことを続ける中で、自分の望みを伝えながら相手にも配慮していくやり取りが生まれるでしょう。
「自分をうまく表現すること」は、その場に「自分らしくいること」でもあります。
自分は自分らしく、相手は相手らしく、そんなコミュニケーションを育んでいくのが「アサーション」の目指すところなのだと思います。
『アサーション入門』を読んだ感想・レビュー
本書を読んで思ったのが、「自分のアサーションに答えはない」ということでした。
厳密に”正しい”アサーションというものはなく、いろんな人とのコミュニケーションを通して、自分に合った「アサーティブな自己表現」を身につけていくことが大事なのだと考えました。
この本を手に取る前は「アサーション」という単語すら知りませんでしたが、本書で平木先生が言われている通り、日本人に必要とされている考え方だと感じました。
また、今回のご紹介では省略しましたが、本書にはアサーションを実践する上で、以下のような重要な考え方(特に日本人にとって)についても触れられています。
- 失敗や過ちを恐れず、自分らしく表現してもよいということ(第二章)
- アサーションのブレーキとなる5つの思考を変えるヒント(第三章)
上記の考え方は、アサーションに限らず、日常生活でも役に立ち、そしてどこか勇気をもらえるような内容となっています。
アサーション初心者の方だけでなく、少しでも興味がある方はぜひ本書を手に取ってみて下さい。
まとめ
今回は、平木典子先生の『アサーション入門』の要約と感想・レビューをご紹介しました。
自己表現が苦手な人にとっては、本書を読むことで「自分らしく伝える方法」のヒントが得られるかもしれません。
このブログでは、他にもオススメの本を紹介しています。もしお時間があれば覗いてみてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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