本書は「科学的なエビデンスをもとに、効率よく仕事や勉強での集中力を高めたい人」のための本です。
著者である鈴木祐氏は、「10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビュー」という膨大なソースをもとに、ヘルスケアをテーマとした書籍を多数出版しているサイエンスライターです。
鈴木氏の書籍の特徴は、多くの参考論文が巻末に掲載されており、読者が自分で科学的なエビデンスを確認することができることです。
今回は「集中力」がテーマということで、学生やビジネスパーソンの関心が多い分野かもしれません。
という方に、ぜひ読んでいただきたい本です。
『ヤバい集中力』の情報
- 著者:鈴木祐
- 出版社:SBクリエイティブ
- 発売日:2019/9/19
- 単行本(ソフトカバー):264ページ
Source:SBクリエイティブ
鈴木祐氏は、15万部を突破した『最高の体調』などの著者としてよく知られています。
『ヤバい集中力』の要約とポイント
本書の重要なポイントを、以下の5つに絞ってまとめました。
① 「集中力」の本当の正体
② 脳科学的な「本能」と「理性」の関係
③ 「獣」と「調教師」の特徴
④ 集中力を向上させる3つの教訓
⑤ 獣と調教師を生かすテクニック3選
それぞれの項目について、以下で説明していきます。
① 「集中力」の本当の正体
本書では「集中力」とは、以下の能力を複合したものであると述べられています。
- 自己効力感
- モチベーション管理能力
- 注意の持続力
- セルフコントロール能力
まず自己効力感とは、「自分は難しいことでもやり遂げられる」と思える心理状態のことです。これがないと簡単なことでも自分にはできないと感じてしまい、物事に取り組むことが難しくなります。
これに加えて、モチベーション管理能力(気が乗らないタスクでも、やる気を維持する能力)が合わさることで、自分の意識をタスクに向けることができます。
タスクを開始できたら、次に問題となるのは注意の持続力です。これはタスクに意識を向け続ける能力であり、個人差はありますが、成人の注意の持続力は平均でたった20分だそうです。
タスクに意識を向け続けるためには、セルフコントロール能力が必要となります。つまり、雑念を排除し、自分を律し続ける能力が重要となります。
このように、一言に「集中力」といっても、分解していくと複数の能力が組み合わさったマルチな能力であることがわかります。
「集中力」とは、「自己効力感」「モチベーション管理能力」「注意の持続力」「セルフコントロール能力」を複合したマルチな能力である。
② 脳科学的な「本能」と「理性」の関係
古来より、人の心のはたらきは「本能」と「理性」という2つの要素を使って説明されます。
これは単なる直感的な捉え方ではなく、脳科学的にもそれぞれを司る部位の存在が明らかにされています。
大脳にある「前頭前皮質」と「辺縁系」は、それぞれ次のような機能をもっています。
- 前頭前皮質:複雑な計算や問題解決を得意とする
- 辺縁系:食事や性欲、本能的な欲望に従う
この「前頭前皮質」と「辺縁系」の役割を、鈴木氏は「獣」と「調教師」という喩えを使って、次のように表現しています。
ここまでの説明に準じれば、獣は「衝動」や「辺縁系」に当たり、調教師は「理性」と「前頭前皮質」に相当します。本能のまま好きに動く獣を、調教師がどうにかして操ろうとするような、そんなイメージです。
『ヤバい集中力』鈴木祐 P. 26
複雑なタスクを行うときは、前頭前皮質の「調教師」の働きが重要となります。そして、本能的な営みを行う際は「獣」の存在が欠かせません。
このように、人間の生活は「獣」と「調教師」の両方のバランスをうまく取ることで成り立っているといえます。
脳内には、本能を司る「獣」と理性を司る「調教師」が存在する。
③ 「獣」と「調教師」の特徴
ここからは、脳に住む「獣」と「調教師」のそれぞれの特徴について見ていきます。
まず「獣」には、次のような特徴があります。
- 難しいものを嫌う
- あらゆる刺激に反応する
- パワーが強い
獣は基本的に、怠惰な性格で難しいものを嫌います。これはエネルギーの浪費を防ぐように脳がプログラムされているからです。
また、あらゆる刺激に反応し、それらを並列的に処理します。獣は膨大な量の情報(1秒間に1100万件を超える情報量1)を処理しています。
そのため、獣のパワーは強く、使いこなせれば強力な味方となりますが、食べ物や性的なもの、暴力などの刺激にすぐ反応してしまうという弱点があります。
一方で、「調教師」には次のような特徴があります。
- 論理性を武器に使う
- パワーが弱い
- エネルギー消費量が多い
調教師は、情報を論理的に処理することができます。たとえば、ダイエット中にケーキが食べたくなったとき、獣は「ケーキを食べよう!」と反応するのに対して、調教師は「食べたら太るからダメ!」と論理的な判断をします。
しかし、獣が情報を並列処理できるのに対して、調教師は直列的に情報を処理します。そのため、処理できる情報量やスピードという点において、獣よりも調教師のパワーは弱いです。
また、調教師はエネルギー消費が激しく、一度に扱える情報量には限りがあります。これは脳のワーキングメモリ(短期記憶)の大きさに依存します2。
以上の「獣」と「調教師」の特徴をまとめると、次のようになります。
- 「獣」はパワーは強いが、単純でいろんな刺激に反応する
- 「調教師」は論理に強いが、パワーが弱くエネルギーを消費しやすい
④ 集中力を向上させる3つの教訓
「獣」と「調教師」のそれぞれの特徴から、次の3つの教訓が得られます。
- 第1の教訓:調教師は獣に勝てない
- 第2の教訓:集中が得意な人はいない
- 第3の教訓:獣をうまく導けば、莫大なパワーが得られる
パワーが弱い調教師は、どうしても獣に勝つことはできません。
しかし、調教師は獣をうまく誘導することで、その莫大なパワーを操ることができます。
ここからは、科学的な根拠にもとづいた「獣の飼い方テクニック」を見ていきます。
調教師は獣には勝てないが、獣をうまく誘導することで、その莫大なパワーを操ることができる。
⑤ 獣と調教師を生かすテクニック3選
本書では、「獣」と「調教師」をうまく操るための「神ライフハック」が45個も紹介されています。
その中から、私が特に気になった以下の3つを解説していきます。
- 科学的なカフェインの摂り方
- 「マイ儀式」の習慣化
- 「VIA SMART」の実践
科学的なカフェインの摂り方
カフェインには覚醒効果があり、注意力や集中力を向上させる効果があることはよく知られています。
しかし、どのタイミングで、どのくらいの量を摂取すべきかという具体的な摂取方法については、あまり知られていないのではないと思います。
カフェインの効果については、以下のような研究結果が出ています3。
- 150~200 mgのカフェインを摂取すると、30分ほどで疲労感がやわらぎ、注意力の持続時間が向上する
- カフェインの集中力アップの効果は、ベースラインから5%前後だと思われる
「150~200 mgのカフェイン」は、目安として缶コーヒー1本分に相当します。
また、集中力が「ベースラインから5%前後」の上昇というのは、別の研究4によると、チェスプレイヤーの世界ランクが5000位から3000位に上がるのに相当するとのことです。
個人差はあるとは思いますが、缶コーヒーを飲むだけでこれだけの効果があるのは大きいと思います。
ただし、カフェインを摂取するときは以下に気を付ける必要があります。
- 一度に缶コーヒーを2本以上飲まない
- カフェインに弱い人は、コーヒーにはミルクかクリームを入れる
- 起床から90分はカフェインを飲まない(コルチゾールとの相互作用を避けるため)
- 「2B-Alert」を用いて、適切な摂取量とタイミングをスケジューリングする
- 緑茶に含まれる「テアニン」と一緒に飲むと、より集中力アップ5
こちらの詳細については、ぜひ本書を手に取ってご確認ください。
「カフェイン」を科学的に適した量・タイミングで飲むと、集中力が向上する。
「マイ儀式」の習慣化
「マイ儀式」とは、「獣を目覚めさせる自分オリジナルの儀式」のことです。これは、スポーツ選手が試合前に行う「ルーティン」と同じような意味です。
マイ儀式を習慣化させることで、獣のパワーを今やるべきことに誘導していきます。
「マイ儀式」を作るのに大事なのは、次の2点です。
- 「この動作をしたら大事な作業に取り組む」とあらかじめ決めておく
- 決めた手順を何度も反復する
この取り組みの最終的なゴールは、マイ儀式を習慣化し、自然とやるべき作業に取り組めるようになることです。
では、マイ儀式が習慣化するまでにはどのくらいの期間が必要なのでしょうか?
こちらの研究によると6、「朝に水を飲む」などの簡単なものは2~3週間で身に身につきますが、「毎日50回ずつ腹筋運動をする」といった難しいタスクの場合は、最長で256日もかかったと報告されています。
また他の研究結果も踏まえて、本書では以下のように提案されています。
とはいえ、複数の研究をざっくりまとめれば、たいていの行動は40~60日も続ければ身につくとの平均値が出ています。あまり精密な数字を求めても仕方がないので、とりあえずは「ひとつの儀式を週4以上のペースで6~8週間は行う」と考えておいてください。
『ヤバい集中力』鈴木祐 P. 147
(太字筆者)
つまり。目安として「1日おきに2か月間続けてみる」ことで習慣化できるようです。
「マイ儀式」を習慣化し、脳内の「獣」を目覚めさせる。
VIA SMARTの実践
「VIA SMART」は、集中力アップの方法の1つで、「自分の『強み』を生かし、具体的な計画を立てて実践する」というものです。ノースセントラル大学の実験で効果が確認されています7。
「VIA SMART」は、次の2つのステップに分かれています。
- 「VIA」で自分の「強み」に関する診断テストを行う
- 「SMART」というフレームワークで、具体的な目標に落とし込む
ここから、ざっくりと「VIA SMART」のやり方をご紹介していきます。
まず、「VIA」の公式サイトにアクセスし、そこで自分の「強み」に関する無料の診断テストを行います。
回答には15分ほどかかります。回答が完了すると、自分の「強み」のトップ5が表示されます。
上の画像の赤の枠内「 PDF RESULTS」をクリックすることで、結果シートのダウンロードができます。
診断結果の上位5つの「強み」から、自分の直感で1つを選び、日々の目標や作業に役立てる方法を考えます。このとき、次の構文に当てはめて考えるのがオススメです。
「自分の強み」を「実現したい目標」に生かしたいなら、「行動」するようにしてみる。
次に、「SMART」と呼ばれるフレームワークを用いて、目標をより実現可能なレベルに落とし込んでいきます。
- Specific(具体的)
- Measurable(計測可能)
- Achievable(達成可能)
- Related(関連性)
- Time-bound(締め切りが明確)
まず、目標をできるだけ具体的なものに落とし込み、目標の達成度を数字で把握するために計測可能なものにします。
そして、目標は夢のような大きなものでなく、現実に達成可能なレベルのものを選びます。
その計画と重要な仕事との関連性を吟味し、それをいつまでに目標を達成するかという明確な締め切りを設定します。
目標を立てる際は、以上の5項目に気を付けて設定することで、より達成確率が高い状態でタスクを実施することができます。具体的な「VIA SMART」取り組みについては、本書をご参照ください。
「VIA SMART」で、自分の強みを生かして具体的な目標を達成する。
『ヤバい集中力』を読んだ感想・レビュー
本記事では『ヤバい集中力』の内容をもとに、人間の脳に住む「獣」と「調教師」を脳科学的に見ていき、それらの特性を生かすテクニックを3つに絞ってご紹介しました。
実は本書には、今回紹介しきれなかった「神ライフハック」がまだまだあります。
- 食べるだけで脳機能を向上させる「地中海食」
- ゲームの没頭力を生かした「報酬感覚プランニング」
- 獣の衝動を抑える「デタッチド・マインドフルネス」 などなど
どれも科学的な根拠にもとづいており、また巻末には「実践ロードマップ」も付いているので、誰でも無理なく取り組むことができるようになっています。
とはいえ、著者の鈴木氏も巻末で書かれていますが、それぞれの手法はエビデンスの質に差があり、その効果が大きく異なることもあります。また、個人差もあると思うので、自分に合いそうなものから試していくとよいかと思います。
まとめ
今回は、鈴木祐著『ヤバい集中力』の要約と感想・レビューを書いてきました。
下の記事では、鈴木祐氏の『科学的な適職』をご紹介しています。もしお時間があれば覗いてみてください。
最後に少しだけ宣伝をさせてください!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
脚注
本書『ヤバい集中力』に記載されている論文の出典情報のうち、本記事でご紹介したものを載せています。
- Timothy D. Wilson (2004) “Strangers to Ourselves: Discovering the Adaptive Unconscious”
「1秒のあいだに脳が受け取る情報の量は1100万件を超える」というのは、こちらの書籍からの引用です。しかし、この書籍によると、受け取った1100万件の情報をすべて処理できるわけではなく、人間が意識的に処理できるのはせいぜい40個ほどであるとのことです。 ↩︎ - 本書によると、ワーキングメモリの容量としては、一時的に3~4個までの情報しか保存できないという報告があるとのことです。
Cowan, N. (2001). The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87-114. https://doi.org/10.1017/S0140525X01003922
論文の内容を確認できてないので詳細は不明ですが、以下の記事が参考になりそうです。
The Magical Mystery Four: How is Working Memory Capacity Limited, and Why? – PMC ↩︎ - Brunyé, T. T., Mahoney, C. R., Lieberman, H. R., & Taylor, H. A. (2010). Caffeine modulates attention network function. Brain and cognition, 72(2), 181–188. https://doi.org/10.1016/j.bandc.2009.07.013 ↩︎
- Franke, A. G., Gränsmark, P., Agricola, A., Schühle, K., Rommel, T., Sebastian, A., Balló, H. E., Gorbulev, S., Gerdes, C., Frank, B., Ruckes, C., Tüscher, O., & Lieb, K. (2017). Methylphenidate, modafinil, and caffeine for cognitive enhancement in chess: A double-blind, randomised controlled trial. European neuropsychopharmacology : the journal of the European College of Neuropsychopharmacology, 27(3), 248–260. https://doi.org/10.1016/j.euroneuro.2017.01.006 ↩︎
- Kahathuduwa, C. N., Dassanayake, T. L., Amarakoon, A. M. T., & Weerasinghe, V. S. (2017). Acute effects of theanine, caffeine and theanine-caffeine combination on attention. Nutritional neuroscience, 20(6), 369–377. https://doi.org/10.1080/1028415X.2016.1144845 ↩︎
- Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. https://doi.org/10.1002/ejsp.674 ↩︎
- Butina, B. L. (2016). An investigation of the efficacy of the using your signature strengths in a new way exercise to enhance strengths use in work settings (Doctoral dissertation). Northcentral University, Scottsdale, AZ. Manuscript submitted for publication ↩︎