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【書評】YouTubeでも話題『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の要約と感想・レビュー

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本書のテーマは科学的根拠に基づく勉強法です。

これは学生やビジネスパーソンだけでなく、現在何かを学んでいる方は関心のある内容だと思います。

著者の安川康介先生は、アメリカで働く臨床医です。YouTubeで公開された安川先生の勉強法に関する動画は、これまでに321万回以上再生されています(2024年3月28日現在)。

  • 今よりも勉強ができるようになりたい
  • テストや資格試験で良い点数をとりたい
  • 勉強のモチベーションを維持する方法が知りたい

という方はぜひ、本書の内容を確認してみてください。

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『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の情報

  • 著者:安川康介
  • 出版社:KADOKAWA
  • 発売日:2024/2/15
  • 単行本(ソフトカバー):256ページ

Source:KADOKAWA

著者の安川康介先生は、米国内科専門医・感染症専門医であり、アメリカ医師国家試験をトップ1%以内という高得点で合格した実績の持ち主です。YouTubeでも医学的な情報を中心に発信されています。

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の5つのポイント

本書の重要なポイントを、以下の5つに絞ってまとめました。

  1. 科学的に効果が高くない4つの勉強法
  2. 科学的に効果が高い勉強法(アクティブリコール、分散学習)
  3. 最強の勉強法である「連続的再学習」
  4. 勉強のモチベーションの保ち方
  5. その他の勉強のヒント

それぞれについて詳しく見ていきます。

科学的に効果が高くない4つの勉強法

本書の第1章では、多くの人が行っている勉強法のうち、実は「科学的に効果が高くない勉強法」として、次の4つが紹介されています。

  • 繰り返し読む(再読)
  • ノートに書き写す・まとめる
  • ハイライトや下線を引く
  • 好みの学習スタイルに合わせる

これらの勉強法は、いずれも「今ある科学的根拠に基づき、有用性は低い」と評価されています。

その理由の1つとして、効果的な勉強に必要とされる「脳への負荷」が足りないことが挙げられます。学習の分野では、この負荷を望ましい困難と呼びます。

中でも意外だったのは、4つ目の「好みの学習スタイルに合わせる」というのが「現時点では科学的な根拠が不十分」とされている点です。

つまり、「自分に合った勉強法が一番効果的である」という考え方には、今のところは科学的根拠はあまりないということです。

これは、著名な認知心理学者たちが書いた「学習スタイル:概念と科学的根拠」という論文で報告されています1

私自身、「自分に合った方法が、一番効率の良い方法である」と信じていたので、この情報には大変驚かされました。

もちろん、自分の好きなやり方をすることでモチベーションにつながることもあるため、その場合は好きなスタイルで勉強するのが良いこともあると、安川先生は書かれています。

ただし、「自分にはこの方法が合っている」という考えに囚われすぎないことが重要です。

科学的に効果が高い勉強法

では、科学的根拠のある「効果が高い勉強」を行うためにはどのようにすれば良いのでしょうか?

本書では「科学的に効果が高い勉強法」として、以下の4つの方法が紹介されています。

  • アクティブリコール
  • 分散学習
  • 精緻的質問と自己説明
  • インターリービング

ちなみに、本書における科学的に効果が高い勉強法とは、ケント州立大学心理学部のダンロスキー教授らによる学習方法の有用性に関する報告書2において、「高い有用性」「中等度の有用性」と評価されたものが紹介されています。

今回は、この中から「アクティブリコール」と「分散学習」の2つを詳しく見ていきます。

アクティブリコール

アクティブリコールとは、「勉強したことや覚えたいことを、能動的に思い出すこと、記憶から引き出すこと」と本書では説明されています。

「え? 記憶したいことを頑張って記憶から引き出す? それだけ?」、そう思われる方も多いかもしれません。
実は、これまでの学習に関する数多くの研究から、何かを記憶するためには、それを積極的に思い出す作業や、脳みそから頑張って取り出す作業こそが、決定的に重要だということが明らかになっています。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.48-49

本書で紹介されている研究3では、80人の学生を4つのグループに分けて、それぞれの方法で勉強(動物に関する科学的な文章を読むこと)を行いました。

本書P.54の説明を参考に作成

そして、勉強してから1週間後に、学生たちは次の2種類の問題を解きました。

  • 文章の内容のそのまま問う問題(知識問題)
  • 文章の内容を推論をして解く問題(応用問題)

その結果、それぞれの学習法におけるテストの正答率は次のグラフのようになりました。

本書P.55の図を参考に作成

これは、アクティブリコールを実施したDグループが最もテストの正答率が高かったことを示しています。

それに次いで、繰り返し勉強したBグループ、概念マップを作成したCグループが、1回だけ(1セッションだけ)勉強をしたAグループと比べて正答率が高くなっています。

これらの結果から、アクティブリコールは他の学習方法と比べて効果的であることが分かります。

また興味深いのは、学生たちが勉強した直後に「1週間後にどれくらい自分が内容を覚えているか」を予想させました。その回答の結果が、次のグラフになります。

本書P.56の図を参考に作成

結果として、一番内容を覚えていると回答したのは、繰り返し勉強を行ったBグループでした。一方で、最も正答率が高かったDグループは、予想した割合が最も低い(=自信がない)という結果となりました。

つまり、アクティブリコールをしたグループは勉強直後は、他の勉強方法で勉強した人たちに比べて一番自信がなかったのです。実際は一番効果がなさそうだと評価されたアクティブリコールが、一番効果があったというわけです。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.57

安川先生は、この結果を「勉強の本当の効果は、勉強している本人には実感しにくいことがある」とまとめています。

この実験の結果は、繰り返し読むなどの比較的効果が高くない勉強の方が、よく覚えていると感じやすいともいえるため、その点は気をつける必要があります。

分散学習(間隔反復)

分散学習とは、「一度にまとめて勉強をするのではなく、時間を分散して間隔をあけて勉強すること」です。

一方で、一夜漬けなど集中して学習を行う場合は、分散学習に対して集中学習と呼ばれます。

間隔をあけて勉強する「分散学習」の方が、一度にまとめて勉強する「集中学習」よりも効果が高いことは、ドイツの心理学者エビングハウスによって実験的に示されました。

エビングハウスは「忘却曲線」の提唱者としても有名であり、自身の著書4で次のように語っていると本書で述べられています。

「多くの繰り返しを行う際には、それらを一度にまとめて行うよりも、時間を分散させて行うほうが、明らかに有利である」

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.74

他の研究でも分散学習の効果は確認されており、本書ではその代表的な研究について詳しく説明されています。

最強の勉強法である「連続的再学習」

ここまで「科学的に効果が高い勉強法」として、アクティブリコールと分散学習についてご紹介しました。

では結局のところ、「最も学習効果の高い勉強法」とは一体何なのでしょうか?

その答えはご説明するまでもなく、「アクティブリコール」と「分散学習」を組み合わせた学習法連続的再学習です。

アクティブリコールと間隔反復、この2つを組み合わせた勉強法が、現代の学習の科学的根拠に基づく、誰でも実践可能で効果の高い方法だと考えます。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.81

連続的再学習では、新しい内容を勉強する際には、まずアクティブリコールを1~3回繰り返して、内容を思い出せるようにすることが重要です。

その後、1日~1週間後に再度アクティブリコールを行い、忘れている内容を確認(フィードバック)して、少なくとも1回はアクティブリコールをします。

この操作を時間の間隔をあけて、何回か繰り返すようにします。

連続的再学習の実践方法の説明は割愛しますが、本書では具体例として「英単語の暗記」のやり方が取り上げられています。興味のある方は、ぜひご参照ください。

勉強のモチベーションの保ち方

本書では、学習に限らず、人のモチベーションを考えるための理論として自己決定理論が紹介されています。

自己決定理論では、次の3つの心理的欲求が満たされることで、内発的なモチベーションが推進されると考えます。

  • 自律性
    他人から強制されることなく、自分で行動を選択・決定すること
  • 有能感
    自分には能力があり、何かを上手くできると感じること
  • 関係性
    周囲の人から関心を持たれていると感じること

この3点を踏まえて、自分や他人のモチベーションについて考える際は、以下の質問について考えるのも有効です。

  • これは自分で決めたことなのか?
  • 有能感を感じることができているか?
  • 他の人や社会とのつながりはどうか?

定期的にこれらを振り返ってみることで、自分のモチベーションを維持するためのヒントが得られるかもしれません。

人生を「勉強」で後悔しないために

アメリカで実施された調査によると、人生において人が後悔することの1位は「教育・勉強」に関することだそうです5

ちなみに、2位以下は次の通りです。

  • 1位:教育・勉強(32%)
  • 2位:キャリア(22%)
  • 3位:恋愛(15%)
  • 4位:育児(10%)

この結果について、本書では論文の著者である心理学者ニール・ローズらの考察が紹介されています。

なぜ人は、勉強に関して後悔することが多いのでしょうか。(中略)
人は、機会がなくてできなかったことよりも、機会が与えられており「自分でやろうと思えばできたのに、やらなかったこと」に後悔するのだと言います。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.184

今の時代、学習する意欲さえあれば、どこでも勉強ができるようになりました。

オンラインでも名門大学の授業が一部無料で受けられたり、教育系のYouTube動画も豊富にあります。

安川先生も「もし何か学びたいと思っているのならば、後悔しないためにも思い切って始めてみることをお勧めします」と本書に書かれています。

実際、安川先生は自身の好奇心に従って「古事記」についての勉強を行い、最終的に「古事記の神話—医学的視点から」という論文まで執筆されたそうです6

好奇心が湧き、集中力も高く、やる気もあり、覚えやすく、忘れにくい状態になったら没頭してみる。そうすれば学習効果が高いだけでなく、勉強自体が楽しいと感じます。
「学ぶことは楽しい」、そう思えたら、さらに勉強したくなるはずです。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.192

勉強する上で最も重要なのは、いろいろなことに興味を持って楽しく学ぶことなのかもしれません。

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』を読んだ感想・レビュー

本書で紹介されている勉強法は、「科学的根拠に基づく」という点において信憑性のある方法だと思います。

それぞれの勉強法について、「なぜこの方法は効果が高いのか(高くないのか)」という理由が、実際に行われた科学的な研究内容とともに説明されています。

僕だけがやって、たまたまうまくいった勉強法を偉そうに教授する本ではなく、どちらかというと「おーい、みんな。勉強はこうやったほうがいいらしいよ!」といった内容の本です。

安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』P.10

実際、これまでは効果的だと思われていた勉強法(再読、ノートまとめ、マーカーを引くことなど)は科学的には効果は高いものではなく、連続的再学習(アクティブリコール+分散学習)が最強だという主張は明快だと感じました。

ただし、科学的な根拠があるからと言って、従来の勉強法が「効果がない」という訳ではないことも念頭に置く必要があります。

以下のふろむだ氏のnoteでも書かれているように、「繰り返し読む(再読)」についても目的ややり方によって「効果」というものは変わってきます。

「繰り返し読む」勉強法で思い出すのは、山口真由氏の『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』です。こちらは繰り返し読むことをベースとしているものの、その方法は山口氏によって最適化され、ご本人は成果を出されています。

つまり、従来の勉強法もやり方しだいでは、効果的な勉強法になる可能性があります。

このことも踏まえて、本書で個人的に参考になったのが、安川先生自身がこれまでに行ってきた経験的に効果的だった勉強法です。

科学的な検証が不十分なものもありますが、安川先生の実績はどのような勉強法から生み出されたものなのか、その一端を垣間見れたのは良かったです。

また、勉強をしている人なら一度は味わったことのある「勉強に対する不安感」への対処法や、それに関する安川先生の体験談なども書かれており、そちらも非常に有益でした。

今回ご紹介した内容は、本書のほんの一部であり、実際はまだまだ興味深いテーマがたくさん書かれています。

  • 精緻的質問」や「インターリービング」などの効果的な学習法
  • 自己関連づけ効果」によるモチベーションの保ち方
  • 勉強で不安を感じたときの対処法 など

人生を「勉強」で後悔したくない方は、ぜひ一度手に取って読んでみてください。

まとめ

今回は、安川康介先生の『科学的根拠に基づく最高の勉強法』の要約と感想・レビューを書きました。

このブログでは、他にもオススメの本を紹介しています。もしお時間があればのぞいてみてください。

えのきつね
えのきつね

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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脚注

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』に記載されている論文の出典情報のうち、本記事でご紹介したものを載せています。

  1. Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning Styles: Concepts and Evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105-119. https://doi.org/10.1111/j.1539-6053.2009.01038.x ↩︎
  2. Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT. Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychol Sci Public Interest. 2013 Jan;14(1):4-58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266. ↩︎
  3. Jeffrey D. Karpicke, Janell R. Blunt, Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping.Science 331,772-775(2011). http://dx.doi.org/10.1126/science.1199327 ↩︎
  4. Ebbinghaus H. Memory: a contribution to experimental psychology. ;Dover Publications (1964) ↩︎
  5. Roese NJ, Summerville A. What we regret most… and why. Pers Soc Psychol Bull. 2005 Sep;31(9):1273-85. https://doi.org/10.1177/0146167205274693 ↩︎
  6. 安川康介. Mythology in Kojiki : A Medical Perspective. 日本医史学雑誌 = Journal of the Japanese Society for the History of Medicine 66 (3), 267-283, 2020-09 http://jshm.or.jp/journal/66-3/66-3_sosetsu_1.pdf ↩︎
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