本書のキーワードである「ファクトフルネス」とは、「事実(データ)に基づいて世界を正しく見る」ための考え方です。
誰もが持つ「10の本能による思い込み」を乗り越え、「事実に基づく世界の見方」を身につける方法を、医者であり、公衆衛生学者でもある著者が自身の経験を踏まえて分かりやすく解説します。
- 世界の状況をデータに基づいて正しく理解したい
- 未来予測をする前に、今の世界について知りたい
- 感情的にではなく、論理的に考える力を身につけたい
このような方に、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
『FACTFULNESS』の情報
- 著:ハンス・ロスリング(他2名)、翻訳:上杉 周作、関 美和
- 出版社:日経BP社
- 2019年3月27日 第1版第9刷発行
- 単行本(ソフトカバー):400ページ
著者のハンス・ロスリング氏は、医師、公衆衛生学者のほかにTEDトークの講演者としても知られており、彼の動画はこれまでに1,500万回以上も再生されています。
『FACTFULNESS』の要約とポイント
本書の重要なポイントを、以下の5つに絞ってまとめました。
① 「ファクトフルネス」とは
② 「10の本能」による思い込み
③ 「4つの所得レベル」で世界を正しく見る
④ 「世界人口はひたすら増加する」という勘違い
⑤ 「ファクトフルネス」の実践
それぞれの項目について、以下で説明していきます。
① 「ファクトフルネス」とは
「ファクトフルネス」とは、人間の本能が引き起こす「10の思い込み」に気づき、事実(データ)を基に世界を正しく見る視点のことです。
本書では、イントロダクションに「13問のクイズ」が紹介されています。たとえば次のような問題。
【質問4】世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?
・A 50歳
・B 60歳
・C 70歳
【質問12】いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
・A 20%
・B 50%
・C 80%
以下のサイトでクイズを解くことができます。気になる方は試してみてください。
『ファクトフルネス(FACTFULNESS)』チンパンジークイズ
答えはあえて伏せますが、大半の人のクイズの正答率は3分の1(33%)以下になるとのことです。これは、チンパンジーがランダムに回答して正解する確率よりも少ないことになります。
しかも、学歴の高い人や専門家であるほど、正解率が低くなるという結果となりました。
これは単なる知識不足が原因ではなく、人間が本能的に持っている「ドラマチックすぎる世界の見方」に原因があると著者のハンス・ロスリング氏は述べています。
わたしのクイズで、最もネガティブで極端な答えを選ぶ人が多いのは、「ドラマチックすぎる世界の見方」が原因だ。世界のことについて考えたり、推測したり、学んだりするときは、誰でも無意識に「自分の世界の見方」を反映させてしまう。だから、世界の見方が間違っていたら、正しい推測もできない。
ハンス・ロスリングほか『ファクトフルネス』P.21
本書では、信頼できるデータを元に作成された様々な図や写真、著者が経験したエピソードを通して、この「ドラマチックすぎる世界の見方」から抜け出し、「事実に基づく世界の見方」を身につけることを目標としています。
自分の知識の偏りや先入観に気づき、事実(データ)に基づいて「いま世界はどうなっているか」を正しく理解することが「ファクトフルネス」につながります。
ハンス・ロスリング氏が、息子のオーラとその妻のアンナと共に設立したギャップマインダー財団は、「事実に基づく世界の見方」を広めるための教材やデータを無料で提供しています。
② 「10の本能」による思い込み
本書では、以下の10の本能による思い込みが紹介されています。
- 分断本能
- ネガティブ本能
- 直線本能
- 恐怖本能
- 過大視本能
- パターン化本能
- 宿命本能
- 単純化本能
- 犯人探し本能
- 焦り本能
たとえば「分断本能」の例を挙げると、多くの人は、世界の国々は「先進国」と「途上国」の2つに分類することができ、それぞれの国には決して埋まることのない「分断」が存在するという思い込みを持っています。
実際は、「先進国」と「途上国」の分断が存在していたのは1965年の世界のことであり、現在ではそれらを分断する明確な根拠はありません。
つまり、今の時代に「先進国」「途上国」という分類を使っている人は、1965年という昔の指標で世界を見ていることになります。
このように、当たり前の考え方だと思っていたものが、実はデータを見てみると間違っているという例が「10の本能による思い込み」の各項目で紹介されています。
③ 「4つの所得レベル」で世界を正しく見る
ロスリング氏は、上で説明したような「国々を先進国と途上国に分断すること」をやめて、その代わりに4つの所得レベルに分類して世界を見る方法を提唱しています。
世界の人口(70億人1)を所得の大きさによってレベル1~レベル4に分けると、次のような図になります(人形1つは人口10億人を表しています)。
世界の人々を所得ごとに分類して見てみると、各レベルにおける彼らの暮らしは国や文化、宗教に関係なく、似通った生活をしていることに気づきます。
こうして見ると、国は違っても所得の同じ人たちのあいだには驚くほどの共通点があることがわかるし、国が同じでも所得が違えば暮らしぶりがまったく違うこともわかる。
ハンス・ロスリングほか『ファクトフルネス』P.201
人々の暮らしぶりにいちばん大きな影響を与える要因は宗教でも文化でも国でもなく、収入だということは一目瞭然だ。
それぞれのレベルでの暮らしは、およそ次のようなイメージです。
- レベル1(10億人)
1日1.9ドル以下の所得(極度の貧困)。
裸足で泥水をバケツに汲み、泥混じりの粥を食べる。 - レベル2(30億人)
1日2ドル以上8ドル未満の所得。
自転車で水を汲み、学校にも行く。停電がなければ、電球の明かりで勉強ができる。 - レベル3(20億人)
1日8ドル以上32ドル未満の所得。
水道が通り、移動はバイク。冷蔵庫も買えて、まれに旅行にも行く。 - レベル4(10億人)
1日32ドル以上の所得。
水道があるのは当たり前で、車移動。栄養のある食事。裕福な消費者。
これを見ると、世界の人たちの大部分(7割以上)がレベル2とレベル3に暮らしていることが分かります。
つまり、「先進国の暮らしは豊かで、途上国の生活は貧しい」という極端な考え方は当てはまらず、世界の大半はそれなりの生活を送っていると言えます。
一方で、所得が1日1.9ドル(約200円)以下の人は、専門用語で「極度の貧困」と呼ばれます。この状態にある人は世界におよそ10億人存在しており、2030年までこれらの人々をなくすことがSDGsの目標にも掲げられています2。
このように、4つの所得レベルというシンプルな考え方は、「事実に基づく世界の見方」を支える重要な指標の一つとなっています。
〈ドル・ストリート〉は、共著者のアンナが開発した「それぞれの所得に応じた世界中の人たちの生活を写真で見ることができるツール」です。写真家が50カ国300世帯に訪問し、撮影した豊富な生活写真によって、彼らの暮らしをウェブ上で知ることができます。
④ 「世界人口はひたすら増加する」という勘違い
「世界の人口は将来どうなるか?」という話は、よくニュースでも耳にする内容かもしれません。
下のグラフを見ると、世界の人口は増加の一途をたどり、1900年以降からは急激に増加していることが分かります。
2011年の世界人口はおよそ70億人であり、2022年11月に世界人口は80億人を突破しました。このままいくと、世界の人口はこれまで以上に速いスピードでひたすら増え続けていくように思えます。
しかし、実際は人口の増加スピードはすでに緩やかになりつつあり、これから数十年間は減速すると予測されています。
国連の予測によると、2100年の世界人口は100億人から120億人で安定すると推測されており、それが人口のピークとなるとも言われています。
未来の人口を予測とあわせて、将来の若者や高齢者の割合、出生率について考えることは、今後の社会状況を推測する上で不可欠です。
その重要な指標を「これまでがそうだったから」という理由で「人口は今後も増え続けるだろう」と考えてしまうのは、「直線本能」による思い込みがはたらいているのが原因です。
「グラフは何でも直線的に推移する」という勘違いに気づくことが、「ファクトフルネス」につながります。
⑤ 「ファクトフルネス」の実践
「ファクトフルネス」は、人間が持つ「10の本能」について理解し、その本能が引き起こす思い込みに気づくことで、世界を正しく見ようとする考え方です。
この「ファクトフルな世界の見方」を実践するために、本書には以下のような「物事を考えるときのヒント」が紹介されています。
- 物事の「分断」に気づき、大半の人がどこにいるか探す
- 悪いニュースは広まりやすい
- 直線は常に真っすぐではなく、いつかは曲がる
- 恐怖に陥ることなく、リスクを正しく計算する
- 1つの数字だけを考えず、比較や割合を考える
- それが正しい分類かを疑う
- 人や国、宗教、文化は、ゆっくりと変化している
- 一つの知識が全てに応用できない
- 犯人捜しではなく、原因を探す
- 自分の焦りに気づき、冷静に判断する
「ファクトフルネス」は、批判的思考の一つともいえます。それは与えられたデータを批判的に見るだけでなく、それを使って思考する自分自身も批判的に見ることも重要です。
本書を翻訳した上杉氏は、「訳者あとがき」で次のように述べています。
事実に基づかない「真実」を鵜呑みにしないためには、情報だけでなく、自分自身を批判的に見る力が欠かせません。「この情報源を信頼していいのか?」と問う前に、「自分は自分を信頼していいのか?」と問うべきなのです。(中略)もしどれかの本能が刺激されていたら、「この情報は真実ではない」と決めつける前に、「自分は事実を見る準備ができていない」と考えたいものです。
ハンス・ロスリングほか『ファクトフルネス』P.343
現代はテクノロジーの進化に伴って社会の複雑性が増し、将来の予測が困難(VUCA)の時代であると言われています。
そのような中で現状を正しく把握し、起こりうる将来を予測する力は、今後ますます重要になると考えられます。
本書を読むまでは私も、先進国と途上国の分断や、宗教の考え方がその国の貧困に大きく影響していると信じていました。
今では、「ファクトフルネス」によって世界の正しい姿を知ることで、人はより賢明に、そして謙虚になれると信じています。
将来の不安を抱く前に、まずは世界の現状を知るところから始めましょう。本書を読むことで、世界は思ったよりも悪い方向には進んでいないことが理解できるはずです。
『FACTFULNESS』を読んだ感想・レビュー
本書は、教育、貧困、環境、エネルギー、医療、人口問題といった幅広いテーマで「いま世界はどうなっているか」を正しく理解するための本です。
本書は出典も含めて400ページもあり、統計データの説明も多いので、読んでいるうちに飽きてしまうかと思いましたが、全くそのようなことはなく、夢中で一気読みしてしまいました。
「知識のアップデート」は、めんどくさい作業に思えて、実際は「そうだったの!?」という驚きと発見に満ちた知的な営みであると知れたことが、本書を通しての一番の学びとなりました。
私は、日本を含めて世界はどんどん悪くなっていると思っていましたが、本書を読むと意外とそうでもないことが分かりました。
著者のハンス・ロスリング氏は「状況が『悪い』と『良くなっている』は両立する」と本書で述べています。
わたしは、頭の中に「悪い」と「良くなっている」という2つの考え方を同時に持つようにしている。
ハンス・ロスリングほか『ファクトフルネス』P.90
何かが「良くなっている」と聞くと、「大丈夫だから、心配しないで」とか「目をそらしてもいい」と言われている気になる。しかし、わたしは「世界は良くなっている」とは言っているが、「世界について心配する必要はない」といってはいない。もちろん、「世界の大問題に、目を向ける必要はない」といっているわけでもない。「悪い」と「良くなっている」は両立する。
つまり、その状態が「悪い」ことに変わりはないが、状況としては次第に「良くなってきている」ということです。
今現在、世界が直面している課題は山積みです。しかし、その状況は徐々に改善されあるのも事実です。それを知ることができただけでも、本書を読んだ価値がありました。
しかし、本書で紹介されているデータは主に2017年までのものです。そのため、新型コロナウイルスの世界的大流行を含め、ここ数年に起こった大きな変化については書かれていません(ただ、感染症の世界的流行については本書でも予測されていました)。
本書が出版されてから数年後の今こそ、各々が「ファクトフルネス」を実践して、今後に備える必要があるのかもしれません。
ちなみに最新のデータは、Gapminderのサイトでも公開されているので、世界に関する知識をアップデートしたい方は覗いてみてください。
まとめ
今回は、ハンス・ロスリング(他2名)著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の要約と感想・レビューを書いてきました。
いろいろと課題が多い今の時代において、本書を読むことで少しは明るい未来を想像できるかも知れません。
このブログでは、他にもオススメの本を紹介しています。もしお時間があれば覗いてみてください。
最後に少しだけ宣伝をさせてください!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
(ご質問・ご要望はマシュマロからどうぞ)
脚注
- 2022年11月15日に世界人口は80億人を突破した(世界人口白書2023より)。2024年1月9日現在では、世界の人口は80.8億人と推測されている(Worldmeterのサイトより)。 ↩︎
- 日本ユニセフ協会のサイトでは、極度の貧困状態(1日あたり1.90米ドル以下)で暮らしている人は、7億960万人と公表されている。 ↩︎