《朝希望を持って目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝と共に眠る》は、麻生太郎氏の国会の答弁での発言です。
YouTubeやTikTokでもこの言葉が話題となり、多くの感想やコメントが寄せられています。
そこで今回は、この麻生太郎氏の名言《朝希望を持って目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝と共に眠る》の元ネタを調査してみました。
麻生太郎氏の名言
今回の名言《朝希望を持って目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝と共に眠る》は、2017年3月15日の参議院予算委員会での麻生太郎氏の発言です。
山本太郎氏の質問「人間が生きる上で一番必要なものは何か。私は空気だと思います。麻生大臣、人間が生きる上で二番目に大切なもの、何だと思われますか。」という質問に対して、国務大臣(副総理)の麻生氏は次のように回答しました。
二番目、二番目、私はこの種の訳の分からぬ質問が来たときには答えることは一つなんで。人間で生きていく上に大事なことは、朝希望を持って目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝と共に眠る、この気持ちだと思っています。
第193回国会 参議院 予算委員会 第13号 平成29年3月15日 | PDF表示 | 国会会議録検索システム
この回答に対して、山本氏は「ありがとうございます。一応通告してある質問なんでね、これもね。でも、まあ非常に詩的な表現といいますか、すてきな言葉を聞けたことに感謝いたします。」と返答しています。
《朝希望を持って目覚め〜》の意味
この言葉は、以下の3つのパートに分けられます。
- 朝希望を持って目覚め
- 昼は懸命に働き
- 夜は感謝と共に眠る
これらは一見すると、庶民の「普通の生活」を表しているように思います。
しかし、この「普通の生活」を送ることがどれだけ難しいことか、働いている方なら誰もが理解できると思います。
麻生氏が「人間で生きていく上で大事なこと」として、この言葉を取り上げた意味を考えてみましょう。
朝、希望をもって目覚め
もしかしたら、朝、昼、夜の3つの中で、これが一番難しいかもしれません。
朝起きたとき、社会人なら「会社行きたくない……」、学生なら「学校行きたくない……」、そう思ってしまうのは仕方がないことです。
充実した朝を迎えるためには、布団から出た後に待ち受ける「仕事」や「勉強」に対して、「よし、頑張ろう!」という前向きな姿勢が大切です。
日々、目標に向かって努力する前向きな姿勢が、「朝、希望をもって目覚める」ための活力となります。
昼は懸命に働き
昼は、「自分がやるべきこと」に取り組む時間です。
とはいえ、「自分がやるべきこと」が「自分のやりたくないこと」だったり、「自分のできないこと」だった場合は、どうしても「やりたくないなぁ」と思ってしまいます。
このように「自分がやるべきこと」を「懸命に」行うのも、実際は難しいことです。
自分のやりたくないこと、できないことを、どのようにして「やりたいこと」に変換するか。それを考えるのも「懸命に働き」に含まれていると思います。
自分にできることを、真剣に行うこと。やりたくないことを、やりたいことに変えること。
その瞬間を、一生懸命に生きること。
これが「昼は懸命に働き」に込められた意味だと思います。
夜は感謝と共に眠る
一日の終わりには、自分が出会ったすべての人々、そして今の生活に対して「感謝」の気持ちを持つことが大切です。
寝る前に、心の中で「ありがとう」と唱えるだけでもいいと思います。
「ありがとう」は、元は「有り難し」という言葉から来ており、これは「めったにない」ことを意味します。
そして、「ありがとう」の反対は「当たり前」です。
毎日同じ生活を続けていると、いつしか「当たり前」になっていきます。
しかし、それを「有り難い」と考えることが重要です。温かい布団の中で眠れる夜は、「当たり前」ではなく「ありがたい」ことなのです。
そんな謙虚な気持ちで「夜は感謝と共に眠るにつく」ことができれば、きっと希望に満ちた朝が待っていると思います。
《朝希望を持って目覚め〜》出典調査の結果
今回の調査では、この名言の元ネタは中根環堂『家庭に活きる宗教』(和光社, 1937)の以下の言葉だと思われます。
朝は希望に起きて禮拜
『家庭に活きる宗教』中根環堂 – 国立国会図書館デジタルコレクション
畫は愉快に働いて報恩
夜は感謝に臥して安心
ちなみに「禮拜」は「礼拝」、「畫」は「昼」のことです。
ただし、これより前に出版された本にも、似たような文章が確認されました。森友道『光を辿る人々』(隣人社、1926)の次の文章です。
「朝は希望に起きて夜は感謝に睡る」と經文の中にもある如く又修養の道歌として。
『光を辿る人々』森友道 – 国立国会図書館デジタルコレクション
この文章によると、元々の文章は仏教の経文の中にあるようですが、今回の調査では特定することはできませんでした。
以降で、今回の出典調査の過程を記していきます。
《朝希望を持って目覚め〜》出典調査のプロセス
レファレンス共同データベースの情報
まず、国立国会図書館のレファレンス共同データベースから、元ネタとして以下の2説があるとの情報を得ました。
- 佐藤哲士(福山三菱自動車)「備忘録より」にあるのが元ネタ
- 『心田を耕す』には、増永霊鳳師のことばと書かれている
しかし、この2説については、レファレンスの回答にもあるように、ネットでの調査は困難であり、詳細を調べることはできませんでした。
ちなみに「名言ナビ」では、以下の文章が佐藤哲士『備忘録』を出典として掲載されていました。
朝は希望に生き、
名言ナビ – 朝は希望に生き、昼は努力に生き、夜は感謝に眠る。
昼は努力に生き、
夜は感謝に眠る。
(原文ママ)
上では「朝は希望に生き」とありますが、正しくは「朝は希望に起き」だと思われます。
国立国会図書館デジタルコレクションで検索
国立国会図書館デジタルコレクションにて、「朝は希望に起きて」というワードで検索をかけました。出版日を「古い順」にして「ログインなしで閲覧可能」である検索結果を確認しました。
そのうち、中根環堂『家庭に活きる宗教』(和光社, 1937)を確認すると、次の箇所を見つけました。
朝は希望に起きて禮拜
畫は愉快に働いて報恩
夜は感謝に臥して安心
「名言ナビ」にあった佐藤哲士氏の言葉と少し表現は違いますが、こちらの方が出版年は古いです。
さらに「最後に私は以上の様な見地から、禅を家庭的に実践する爲に、次の様なモツトーを主張して居る。それを紹介して、本書の結語にし度い。」とあり、もしかしたらこの言葉は中根環堂氏のオリジナルかもしれません。
しかし、これとは別に、より古い元ネタ候補として森友道『光を辿る人々』(隣人社、1926)の以下の文章も確認されました。
「朝は希望に起きて夜は感謝に睡る」と經文の中にもある如く又修養の道歌として。
こちらの文章は「昼」の言葉が抜けており、「朝」と「夜」だけ言及されています。
「經文の中にもある如く」とあるため、この出典は仏教の経文にあると考えられます。
いくつかの仏教の経文を調べてみましたが、数が多すぎて全部を確認することはできず、この文章より古い出典を確認することはできませんでした。
まとめ
今回は麻生太郎氏の名言《朝希望を持って目覚め、昼は懸命に働き、夜は感謝と共に眠る》の元ネタを調査し、1937年に出版された書籍の中に類似した記述を確認することができました。
しかし、より古い元ネタとして「(仏教の)経文にある」との情報も見つかったため、かなり前から知られていた言葉であると考えられます。
「一日は一生の縮図」とも言われるように、麻生氏の名言には、人が幸福に生きるための理想と本質が含まれています。
今回の調査によって、麻生氏の教養の深さ、そして必要な場面でさらっとそれを引き出し、自分の言葉に変換して発言できる頭の回転の速さが、より一層理解できた気がします。