本書は「自分に合った仕事を見つける科学的な方法を知りたい」という人にオススメの本です。
著者である鈴木祐氏は、「10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビュー」という膨大なソースをもとに、ヘルスケアをテーマとした書籍を多数出版しているサイエンスライターです。
鈴木氏の書籍の特徴は、多くの参考論文が巻末に掲載されており、読者が自分でエビデンスを確認できる点です。
今回のテーマは「適職の選び方」であり、主にビジネスパーソンが関心のあるジャンルだと思います。
という方に、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。
『科学的な適職』の情報
- 著者:鈴木祐
- 出版社:クロスメディア・パブリッシング
- 発売日:2019/12/21
- 単行本(ソフトカバー):288ページ
Source:クロスメディア・マーケティング
鈴木祐氏は、15万部を突破した『最高の体調』などの著者としてよく知られています。
『科学的な適職』の要約とポイント
本書の重要なポイントを、以下の5つに絞ってまとめました。
① 「適職」を選ぶための5つのステップ
② 好きなことを「仕事」にしても幸福度は上がらない
③ 「情熱」は「努力」した量に比例する
④ 「仕事」への「情熱」は後からついてくる
⑤ 「天職」は”見つけるもの”ではなく”見つかるもの”
それぞれの項目について、以下で説明していきます。
① 「適職」を選ぶための5つのステップ
今回のテーマである「適職」は、本書では次のように定義されています。
「適職」とは、「あなたの幸福が最大化される仕事」のこと。
一般的に「適職」とは、「自分の好きなことができる仕事」「自分の才能が発揮できる職業」をイメージしますが、本書は「自分の幸福の最大化すること」に注目しています。
その「幸福な仕事選び」のための戦略として、次の5つのステップ「AWAKE」を提唱しています。
この5ステップを実践することで、あなたが「真に幸福な仕事(=適職)」に目覚める(AWAKE)ことが本書の目的です。
「AWAKE」の5ステップを実践することで、「真に幸福な仕事(=適職)」に近づくことができる。
② 好きなことを「仕事」にしても幸福度は上がらない
「自分が好きなことを仕事にしたい」と考える人は多いと思います。
本書では、中国の思想家・孔子の「自分の愛することを仕事にすれば、生涯で1日たりとも働かなくて済む」1という言葉が引用されていますが、この孔子の考え方は「科学的に」正しいのでしょうか?
ミシガン州立大学は2015年に「好きなことを仕事にする人は本当に幸せなのか?」というテーマで調査を行いました2。これは、数百もの職業からヒヤリングを実施し、仕事の考え方が個人の幸福にどう影響するのかを調べたものです。
そして研究チームは、被験者の仕事観を「適合派」と「成長派」に分類しました。
- 適合派:「好きなことを仕事にするのが幸せ」タイプ
- 成長派:「仕事は続けているうちに好きになるもの」タイプ
一見すると、「適合派」の方が「成長派」よりも幸せそうに思います。
しかし実際は、「適合派の幸福度が高いのは最初だけで、長いスパン(1~5年)で見た場合は、成長派の方が幸福度・年収・キャリアなどのレベルが高い」という結果が出たそうです。
これについて研究チームは、「適合派は自分が情熱を持てる職を探すのは上手いが、実際にはどんな仕事でも好きになれない面がある」とのこと。
好きなことを仕事にしても、その過程でネガティブな気持ちが生まれてくると、適合派は「今の仕事は自分が本当に好きなことだろうか?」と考えてしまい、最終的に幸福度が下がってしまうとのこと。
一方で、成長派はもともと仕事に期待しておらず、仕事に対する理想と現実とのギャップが少ないため、「仕事とはこんなものだ」と軽く流すことができ、トラブルに強い傾向があります。
「好きなことを仕事にする」と幸せなのは最初のうちだけ。長期的な視点では、仕事に期待しない方が幸福度・年収・キャリアレベルは高い。
③ 「情熱」は「努力」した量に比例する
ドイツのロイファナ大学が2014年に行った研究では、起業家を対象に「今の仕事をどれだけ天職だととらえているか?」を尋ねるアンケートを実施しました3。
アンケートの目的は「仕事に投入する努力量」や「毎日どれだけワクワクしながら働けているか?」を調査することです。その結果がこちらの通り。
- 今の仕事に対する「情熱の量」は、前の週に注いだ「努力量」に比例していた
- 過去に注いだ「努力量」が多いほど、現時点での「情熱の量」も増加した。
被験者の中で、最初から自分を仕事を天職だと思っていた人はおらず、なんとなく仕事を始めた結果、努力をしていくうちに情熱が高まり、天職に変わったという人がほとんどだったとのことです。
その仕事に「情熱」を持てるかどうかは、自分が人生で注いだ努力量に比例する。
④ 「仕事」への「情熱」は後からついてくる
上で見たような「なんとなく取り組んでいるうちに生まれてきた情熱」のことを、心理学では「グロウス・パッション(growth passion)」と呼びます。
イェールNUS大学が2018年に発表した論文では4、研究チームは事前に被験者である学生のグロウス・パッションを調べ、その後ブラックホールの理論に関する難しい論文を読むように指示をしました。
すると、「情熱は何かをやっているうちに生まれてくるものだ」という思いが強い被験者ほど、難しい論文を最後まで読みとおす確率が高いという結果がでました。
「グロウス・パッション」を持つ人は、興味がないことにも熱心に取り組むことができる。
⑤ 「天職」は”見つけるもの”ではなく”見つかるもの”
ジョージタウン大学のカル・ニューポート(Cal Newport)氏は、自分の仕事を「天職」だと考えている人にインタビューして、次のような結論にたどり着きました5。
「天職に就くことができた人の大半は、事前に『人生の目的』を決めていなかった。彼らが天職を得たのは、ほとんどが偶然の産物だったのだ」
「自分のキャリアのゴールを決めず、偶然に任せる」という考え方として、スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授の提唱する「計画的偶発性理論」があります6。
計画的偶発性理論:キャリア選択が計画通りに進むのは全体の2割ほどで、残りの8割は思いがけない出会いや予期せぬイベントによって決定される。
つまり、たとえ綿密な計画を立てて自分が好きなことを仕事にしたとしても、それは思いがけない偶然の出会いによって、いつでも変わる可能性があるということです。
ここまで見てきたことを踏まえて、最後は本書にも登場するドイツの詩人・ゲーテの名言で締めたいと思います7。
「天職」は、計画よりも思いがけない偶然によってもたらされることが多い。
『科学的な適職』を読んだ感想・レビュー
本記事では『科学的な適職』の内容をもとに、「好きなことを仕事にするべきか?」を中心にキャリアについて考え、関連する研究をいくつかご紹介しました。
「自分の好きなことを仕事に!」という考え方はとても魅力的ですが、本書を読むことで「いや待て、たしかこんな研究結果があったような…」と、どこか冷静な視点を持って考えられるようになった気がします。
今回ご紹介した内容は、本書の最初の約20ページ分に相当する内容であり、実はまだまだ紹介しきれなかったテーマがたくさんあります。
- 給料で仕事を選ぶべきか?
- 楽な仕事を選ぶべきか?
- 性格診断は仕事選びに役立つのか? など
どれも興味深いテーマであり、それらが科学的なエビデンスにもとづいて紹介されています。また、本書では「確度の高い意思決定法」について詳しく紹介されており、自分に最適な「適職探し」を実践できるようになっています。
自分にとって「幸せな仕事とは何か?」を考えたい方はぜひ、手に取って読んでみてください。
まとめ
今回は、鈴木祐著『科学的な適職』の要約と感想・レビューを書いてきました。
下の記事では、鈴木祐氏の『ヤバい集中力』をご紹介しています。もしお時間があればのぞいてみてください。
あと最後に少しだけ宣伝をさせてください!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
(ご質問・ご感想はこちらからどうぞ)
脚注
主に、本書『科学的な適職』に記載されている論文の出典情報を載せています。
- この名言の出典を調べてみると『論語』からの引用ではなく、英語の名言 “Choose a job you love , and you will never have to work a day in your life.”から来ているようでした。出典の詳細は、こちらの記事で調査しています。 ↩︎
- N. (2015). Finding a Fit or Developing It: Implicit Theories About Achieving Passion for Work. Personality and Social Psychology Bulletin, 41(10), 1411–1424. https://doi.org/10.1177/0146167215596988
論文の中身を確認できてないので調査結果の詳細は不明ですが、「職業による適合派と成長派の偏りはどうか」「幸福度、年収、キャリアレベルはどの程度の差があったのか」「両者の差の年数による比較(1年後より5年後のほうが差は大きいのか、それとも適合派も慣れて成長派に近づいてくるのか)」などが疑問として残りました。 ↩︎ - Michael M. Gielnik, Matthias Spitzmuller, Antje Schmitt, D. Katharina Klemann, and Michael Frese, 2015: “I Put in Effort, Therefore I Am Passionate”: Investigating the Path from Effort to Passion in Entrepreneurship. AMJ, 58, 1012–1031, https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/amj.2011.0727 ↩︎
- O’Keefe, P. A., Dweck, C. S., & Walton, G. M. (2018). Implicit Theories of Interest: Finding Your Passion or Developing It? Psychological Science, 29(10), 1653-1664. https://doi.org/10.1177/0956797618780643
論文の中身を確認できてないので調査結果の詳細は不明ですが、以下の記事が参考になりそうです。
Do You Discover Your Passion, or Cultivate It? – Association for Psychological Science – APS ↩︎ - Cal Newport (2016) “So Good They Can’t Ignore You”
翻訳版に『今いる場所で突き抜けろ! ――強みに気づいて自由に働く4つのルール』があります。 ↩︎ - ジョン・クランボルツ(2005)『その幸運は偶然ではないんです!』 ↩︎
- この名言を調べてみると、どうやら出典不明らしいです。詳細は東京ゲーテ記念館の調査結果をご参照ください。東京ゲーテ記念館 | Q&A 原文を読みたいので、出典を教えてください。 ↩︎