子どものころ、誰もが一度は「将来の夢」について考えたことがあると思います。
「大人になったら何になりたい?」という質問は、子どもに「将来の夢」を考えさせる言葉ですが、エミリー・ワプニック氏はこの言葉に長く悩まされていました。
「そもそもやりたいことを1つに絞る必要があるのか?」という疑問から、彼女が生み出したのが「マルチ・ポテンシャライト」という生き方です。
本記事では、TEDのエミリー・ワプニック氏の講演『天職が見つからない人がいるのはどうしてでしょう?』(Why some of us don’t have one true calling)の簡単な要約、感想、気になった英語表現をまとめています。
今回の動画
- タイトル:Why some of us don’t have one true calling
(天職が見つからない人がいるのはどうしてでしょう?) - スピーカー:Emilie Wapnick(エミリー・ワプニック)
- 時期:2015年4月
- 動画の長さ:12分17秒
要約
「『大人になったら何になりたい?』という質問に悩んだことのある人は?」というエミリーの問いかけに、観客がちらほらと手を挙げる。そして、彼女自身もその質問に悩まされた一人だと言う。しかし、彼女の場合は、将来なりたいものがなかったわけではない。むしろ、興味があることが多すぎるのが問題だった。
エミリーは「多くのことに興味を持ち、クリエイティブに探究する人」のことを「マルチ・ポテンシャライト」と呼んでいる。似たような言葉で「博学者」「ルネサンス人」などもあるが、「マルチ・ポテンシャライト」は知識の豊富さよりも意欲や好奇心を重視した表現である。
マルチ・ポテンシャライトには、3つの強みがあるという。それは「アイデアを統合する」「学習速度が速い」「適応力」である。つまり、未知の分野の知識を素早く吸収でき、それらのアイデアを統合しながら変化に適応する。これらはこれからの時代に必要とされる能力でもある。
マルチ・ポテンシャライトは多くの場合、何らかのスペシャリストになることを周囲から勧められる。しかし、重要なのは、自分の生まれ持った資質を大切にすることである。スペシャリストは専門分野を深く探求し、自分のプロジェクトを実行する。マルチ・ポテンシャライトは、幅広い知識と経験をプロジェクトに吹き込むことができる。世界は、マルチ・ポテンシャライトを必要としている。
エミリーの著書『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』には、TEDの講演の内容に加えて、「お金」「意義」「多様性」の観点から、自分に合った働き方のアドバイスが書かれている。
私も実際に読んでみたが、世界中で活躍するマルチ・ポテンシャライトの豊富なエピソードと実践的なワークがとても参考になった。
キーワード
- “What do you want to be when you grow up?”
「大人になったら何になりたい?」 - multipotentialite(マルチ・ポテンシャライト)
多くのことに関心を持ち、クリエイティブに探究する人のこと - three multipotentialite super powers
マルチ・ポテンシャライトの3つのスーパーパワー- Idea Synthesis(アイデアを統合する)
- Rapid Lerning(速く学習する)
- Adaptability(適応力)
- inner wiring(内なる資質)
その人が持っている専門性や幅広い興味のこと
感想
「大人になったら何になりたい?」
この質問からエミリーのスピーチが始まる。
私の場合はなりたいものがあったので、この手の質問に困ることはなかったけど、現在進行形で悩んでいるのが「趣味は何ですか?」という質問だ。
基本的に本を読んだり、一人でどこかに行くのが好きだけど、イラストや動画を作るのも好きだし、アニメや映画を観るのも好き。あと最近はブログもそこそこ。
細かく挙げるとキリがないので、最近は「読書が好きです」の一言で済ませることが多い。
本ブログ「本とか旅とか悟りとか。」を見ていただいても分かる通り、私の興味はあらゆるジャンルに散らばっている。
これが得意だと言えるものがあればいいけれど、どこか自分のことを「器用貧乏」だと思うことが多い。何事も中途半端で、大した技術も身についていないと思う。こういう人は意外と多いのではないか。
そんな我々に、エミリーは素敵な名前を与えてくれた。それが「マルチ・ポテンシャライト」である。
スピーチに登場した人たちのようなすごい実績があるわけじゃないけど、自分も興味のあることを掛け合わせたら新しい何かを生み出せるかもしれない、と考えると少し楽しくなってくる。
彼女のスピーチの最後の言葉がこちら。
Embracing our inner wiring leads to a happier, more authentic life. And perhaps more importantly –multipotentialites, the world needs us.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
内なる資質を大切にすることが、より幸せな本物の人生につながります。もっと大切なのは、マルチ・ポテンシャライトの皆さん、世界が私たちを必要としています。
自分の興味のあることは、そのまま続けていい。好きなこともやめる必要はない。大切なのは、自分の「資質(=個性)」とどのように付き合っていくかである。
「今のままの自分でいい」と励まされたような気がした。
ちなみにエミリーのブログ「Puttylike.com」のリンクはこちら。
気になった英語
今回の講演の中で、個人的に気になった単語をピックアップしていきます。
anxiety
Now, raise your hand if the question “What do you want to be when you grow up?” has ever caused you any anxiety.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
では、「大人になったら何になりたい?」という質問に悩まされたことがある人は手を挙げてください。
「anxiety」は「不安、心配」という意味。「caused you any anxiety」で「あなたに何か心配を引き起こした」という意味になる。
persist
And usually I would try and persist anyway, because I had already devoted so much time and energy and sometimes money into this field.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
そして、たいてい私はとにかくやり通そうとします。なぜなら、私はすでに多くの時間とエネルギー、時にはお金もつぎ込んでいたのですから。
「persist」は「固執する、やり通す」という意味。また「devote」は「費やす、捧げる」という意味がある。
luthier
This is Dr. Bob Childs — and he’s a luthier and psychotherapist.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
こちらはボブ・チャイルズ博士——彼は弦楽器職人であり、心理セラピストです。
「luthier」は「弦楽器職人」という意味。ギターやバイオリン、リュート(lute)を製作する人。
thrive
Fast Company magazine identified adaptability as the single most important skill to develop in order to thrive in the 21st century.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
『Fast Campany』誌は、適応力を21世紀で成功するために身に着けるべき最も重要なスキルであるとみなしています。
「thrive」は「繁栄する、成功する」という意味。『Fast Campany』は米国ビジネス誌。
また、「identify~ as…」で「~を…であると確認する」という意味がある。
out-of-the-box
We have a lot of complex, multidimensional problems in the world right now, and we need creative, out-of-the-box thinkers to tackle them.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
私たちは今、世界中で多くの複雑で多面的な問題を抱えています。そして、それらに取り組むクリエイティブで、既存の枠にとらわれない考え方にする人を必要としています。
「out-of-the-box」は直訳すると「箱から出た(状態)」となる。そこから「独創的な、常識にとらわれない」といった意味で使われる。
同様の表現で「think outside the box」「think beyond the box」などがあり、どれも私の好きな言葉。
inner wiring
if there is one thing you take away from this talk, I hope that it is this: embrace your inner wiring, whatever that may be.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
このトークで覚えて帰ってほしいことは、こちらです。内なる資質を大切にしてください、それが何であったとしても。
「inner wiring」は直訳すると「内部配線」になるが、こちらの回答によると「物事に対する考え方(=脳の働き)」という意味で使われているらしい。ここではTEDの翻訳にならって「資質」とすることにした。
embrace
embrace your many passions. Follow your curiosity down those rabbit holes. Explore your intersections.
Emilie Wapnick: Why some of us don’t have one true calling | TED Talk
あなたのたくさんの情熱を大切にしてください。好奇心を追って、いろんな体験をしてください。あなたの(好奇心の)交差点を探究してください。
「embrace」は「抱きしめる、包含する」という意味。
「go down the rabbit hole」は『不思議の国のアリス』が由来とされる慣用句で、「何かに没頭して時間を費やす」という意味で使われる。ネガティブな意味で使われることもあるが、ここでは肯定的に使われている。
まとめ
ここまで『天職が見つからない人がいるのはどうしてでしょう?』の要約、感想、気になった英語をまとめました。
このTEDのスピーチを最初に観たのは学生時代でしたが、当時よりも今の方が自分に響く内容に感じました。
今では「大人になったら何になりたい?」という子ども向けの質問から「大人になった今、何がしたい?」という質問に進化したような気がします。
迷いながらも、その問いに答えながら生きていくのが「大人」なのだと思います(意味深)。