新幹線やまびこで宇都宮へ
新幹線やまびこは、思っていたよりも空いていた。
普通に窓際の席に座ることができて、躊躇なく隣の席に荷物を置けるくらい、人は少なかった。
やまびこはゆっくりと発車して、徐々に速度を上げていく。窓の外の風景は、東京の高いビル群から、だんだんと緑に囲まれる住宅街が見られるようになってきた。なんだか都会から田舎に逃げているみたいだなと思いながら、なんでもない郊外の風景を写真に撮る。
東京駅を出て、1時間もかからないうちに宇都宮に着いた。新幹線を降り、青春18きっぷを改札で見せて、JR列車に乗り換える。ここからやっと、元々計画していたルートに戻る。
JR列車に揺られながら秋田を目指す
新幹線から電車に乗り換え、席に座ってまず開いたのが鉄道の路線図だった。
数年前に、この『鉄道の旅手帖』を買って、自分が通った路線をマーカーで塗りつぶすようにしている(自分が持っているのは四訂版)。
これのおかげで、自分が今までどこを通ってきたかという記録をつけることができるし、リアルタイムで塗りつぶすことで、自分が今どの辺りを通っているのかをイメージすることができる。
GoogleマップのGPSで自分の場所を確認するのもアリだけど、少し味気ない気がするので、アナログ人間である自分にとって、この路線の塗りつぶしはいい趣味になっている。
東京から通過した駅までを黄色いマーカーで塗りつぶし、ついでこれから通る路線も確認する。秋田まで遠いな……。
ここで、連れてきたお供の1冊に手を伸ばす。最初に読もうと決めていたのは、司馬遼太郎の『街道をゆく 29 秋田県散歩、飛騨紀行』である。
実は、秋田に行くのはこれが初めてではなかった。4年ほど前に少しだけ訪れたことがあり、そのときもこの本を持って旅先で読んでいた。その証拠に、本を開くとその1ページ目に、なまはげと秋田新幹線が描かれた秋田駅のスタンプが押されている。
僕は歴史に疎いので、とても司馬遼太郎の歴史的感性をすべて理解することはできないけど、少しは彼の感性に近づけるように、「街道をゆくシリーズ」は旅先で読むようにしていた。
と言うと、なんだか勉強熱心な印象を与えるかもしれないけど、実際はこの本を読んでいるとだんだんと眠くなってくるので、まったくページが進まない。うとうと微睡んでいるうちに、電車は勝手に進んでいく。
福島駅で小休憩
乗り換えのために、何度か駅のホームに降りるも、乗り換えの時間が10分ほどなので、すぐに移動をしなければいけない。
ただ、福島駅以降は、乗り換えの待ち時間が30分くらいあったので、改札から出て辺りを軽く散歩することができた。
休憩がてら、福島駅の改札を出てみると、浴衣を着た若い女性がちらほらと見られた。夏祭りか、それとも花火大会か。いずれにせよ、夏の暑さの中に映る浴衣姿は、見る者を涼しくさせてくれる。
僕はさらに体感的な涼しさを求めて、福島駅のお土産売り場に入ることにした。
いろんな美味しそうなお土産が並ぶなか、少し気になって足を止めてしまったのは、入り口付近で売られていた「カヌレ」だった。
失礼ながら、自分の勝手な印象では、カヌレは質素な味の割に値段が結構高いというイメージが強く、その小さくて可愛らしい見た目と「カヌレ」というお洒落なネーミングによって若者にウケているようにしか感じられなかった。そのカヌレかぁ……。
と、かなりネガティブな感想を抱きながら、カヌレが並ぶショーケースを眺めていたら、そこに置かれていたのは単なるカヌレではなく、キャラメルやホワイトチョコレート、抹茶やミルクティーなど、いろんな味のバリエーションがあるカヌレだった。
ミルクティーのカヌレって、何だ…? ここで思考が止まった。
自分でも気づかないうちに、ショーケースの前でカヌレを凝視していたせいで、カウンターからお店の人がやって来て、「どれになさいますか?」と聞いてくる。まだ買うかどうか決めていなかったんだけど……と思いながらも、こんなにカヌレを見つめているのだから、客だと思われて当然である。
少し考えてから、まぁ秋田の友人への手土産も探していたことだし、カヌレ買うか、と思って、「じゃあ、上の段を1つずつ、計4つお願いします」という、かなり雑な注文をしてしまった。ちなみに、ミルクティー味のカヌレは上の段の左から2番目にあった。
すると、店員さんが「6個だと、お得な値段になりますが」と勧めてくる。僕は頭の中で簡単な計算をして、確かにお得だなと思ったので「じゃあ、チョコレートとストロベリー追加でお願いします」と言って、お得なお値段分のお金を払った。とはいえ、全体的な金額としてはそこそこしたけど、カヌレは美味しかったので良かったことにする。
まさか福島駅で下車した結果、カヌレのエピソードを書くことになるとは思ってもいなかったけど、旅ってこういうもんだよなと改めて感じた。